口腔ケアの必要性について

これからの超高齢社会を迎えるにあたり、2000年には介護保険が導入され社会保障システムが構築されました。開始当初は要介護認定者218万人でしたが、2010年7月の時点で500万人(含要支援)に達しようとしています。

保険者 要支援 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5 合計
全国合計 1,285,395 872,621 867,088 709,376 635,616 574,846 4,944,942

※2010年7月末時点の集計値を掲載

特に軽度の介護者が増加していることから、要介護高齢者の健康維持が必要となってきています。
その健康維持のための手段として口腔ケアが注目を集めています。
それは口腔ケアが単なる口の中のケアだけでなく、発熱や肺炎の予防といった全身の健康維持にも関連するからです。

口腔内には様々な菌が定着して、その温床となっています。健常者の唾液中には、およそ108/mLの常在菌が存在していますが、口腔内の各部には唾液よりも、もっと密度が高い状態で細菌が密着している部分があり、これが歯垢で、最近では口腔内バイオ・フィルムとも呼ばれています。
その歯垢中の口腔細菌には肺炎桿菌や黄色ブドウ球菌などの全身疾患原因菌が含まれていて、口腔内が不衛生であると、さらに増加して発熱や肺炎の起因菌となる場合もあります。

特に高齢者では、日常生活活動の低下による不十分な口腔ケアと、加齢による免疫能の低下などに伴い口腔細菌が増加します。それに加えて要介護高齢者では、うがいが困難になったり、ブラッシングがうまくできなかったりすることがあり、さらにリスクが高まります。

このようなリスクを少しでも減らすために口腔ケアが必要となるのです。

※歯垢と口腔内バイオ・フィルムは細かな定義では異なります。

口腔内バイオ・フィルムについて

口腔内バイオ・フィルムとは、歯の表面にはぺリクルと呼ばれる被膜があり、その上に付着した黄白色の粘着性物質で、微生物が凝集し生態系を作り上げています。約700種にのぼる微生物が存在していて、デンタルプラーク(歯垢)として知られています。

歯の表面に唾液中のタンパク質が付着してぺリクルが形成され、そのぺリクルを構成する特定のタンパク質がレセプター(受容体)となり、そのレセプターに対してアドへジン(付着因子)をもつ細菌が付着してコロニーを形成します。
この初期定着菌群は無害なことが多いので、口腔ケアをしっかりしていれば、歯周病菌などの後期定着菌群が定着することなく、健康が保持されます。
しかし、口腔ケアが十分ではないと、初期付着菌群の表層タンパク質をレセプターとして付着する後期付着菌群が定着・増殖していき、初期定着菌群の代謝物を栄養源として代謝を続け、他の菌の栄養となって増殖します。

そして形成されたコロニーは、唾液や抗菌物質から守られる細菌の生息しやすい環境に変化していき、通常では共存できないような多種多様な細菌の共存が可能になります。
この段階で歯周病や齲蝕などの口腔感染症が生じ、さらに肺炎桿菌や黄色ブドウ球菌が増殖して、発熱や肺炎を発症することになります。

※デンタルプラークと口腔内バイオ・フィルムは細かな定義では異なります。

誤嚥性肺炎について

誤嚥性肺炎とは、高齢者で嚥下機能の低下がある場合うまく飲み込めなかったり、喉頭蓋の動きが低下し咳やむせといった動作が鈍くなると気管への誤嚥が生じます。
その誤嚥によって口の中の細菌や逆流した胃液が気管や肺に入ってしまい、体力・抵抗力・免疫力の低下により細菌を除去できない場合に発症する肺炎のことです。

通常は誤嚥から1週間ほどで発症しますが、胃酸誤嚥などによる化学性肺炎
では、誤嚥の直後より呼吸困難・咳・発熱・過呼吸をきたすこがあります。
誤嚥性肺炎は老人性肺炎とも言われ、高齢者では命にかかわるケースも少なくない病気です。
誤嚥を認めれば必ず肺炎を起こすわけではなく、
1.口腔の清潔度
2.
誤嚥物の量や酸性度
3.
患者の免疫機能
などが関連します。

誤嚥を疑う代表的な症状は飲食事のむせや咳ですが、咳反射機能の低下などで、むせない誤嚥が摂食・嚥下障害の約半数を占めるとされており注意が必要です。
最も重症の誤嚥では、飲食物を口から摂らなくても自分の唾液で誤嚥してしまう状態となります。
誤嚥性肺炎のリスクを減らすためには、口から飲食物を摂取できない患者であっても口腔を清潔に保つことが重要となります。

誤嚥とは、飲食物や唾液が気管に入ってしまう現象で、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こす原因ともなります。一般的に、とろみのついたペースト状の食品よりも、さらさらした液体(水分)のほうが誤嚥されやすくなります。

肺炎発症率と発熱発生率

下記のグラフは全国11ヵ所の特別養護老人ホームで専門的に口腔ケアを実施した人と実施しない人に分けて、2年間にわたり肺炎発症率と発熱発生率を追跡調査した結果です。


(※要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究:米山 武義、吉田 光由他 日歯医学会誌2001)

【調査方法】

老人ホームの入所者を、無作為に口腔ケア施行群184名(平均82歳)と対照群182名(平均82歳)に分け、
肺炎を指標として2年間経過を観察

【口腔ケアの方法】

1.毎食後、看護師または介護士が歯ブラシで対象者の歯を清掃し、1%ポビドンヨード液を湿したアプリ
 ケーターで咽頭を洗浄
2.週1回歯科医師が口腔の状態を評価

【結果】

肺炎発症率 :  対照群 19% 発熱発生率 :  対照群 40%
 口腔ケア群 11%  口腔ケア群 16%

その結果、専門的口腔ケアを実施た人は、実施しなかった人に比べて、肺炎を発症した人数、肺炎による死亡者数、発熱者数が統計学的に低いという結果が得られました。

口腔ケアを適切に行い口腔内の汚れを取り除くと、唾液の分泌も促進されて自浄作用が働き、口腔内の細菌増殖は抑制されます。たとえ微小吸引が起こっても、ただちに肺炎を発症する可能性が低くなります。
実際には、起床時、毎食後、就寝前に口腔ケアを行います。特に、寝る前の口腔ケアが効果的です。

【口腔ケアの具体例】

1.口腔清掃、2.フッ素化合物の塗布、3.義歯の装着と手入れ、4.咀嚼、5.摂食・嚥下、6.口臭の除去、
7.口腔乾燥の防止、8.口腔の痛みの軽減、9.口腔出血の防止、10.歯肉、頬部のマッサージ、
11.咀嚼筋、口腔周囲筋、舌の運動、12.リハビリテーションとしての言語訓練、13.食事の介護、
14.口腔の検診、15.口腔の美容

口腔ケアの徹底は症状の有無に関わらず、誤嚥性肺炎の発症を抑制できます。

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“患者の口腔内の状態は看護ケアの質を最もよく表現するもである”

これはバージニア・ヘンダーソンさんが、半世紀も前に執筆した「看護の基本となるもの」という看護師のバイブル的な本に残された一節です。
要介護者にとって口腔領域の衛生が重要なことはもちろんのこと、目立ちにくい、気づきにくい、手入れがしにくい口腔領域のケアをきちんとされてこそ本当の介護だという意味が含まれています。

【口腔ケアのキーポイント】 :  まずは1日1回からの口腔ケアスタート!!

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